自社契約農場で育てるオリジナルの黒毛和牛「宍粟牛」を販売する柴原精肉店の二代目店主。宍粟牛は、誕生から50年以上をかけて口コミで広まり、京阪神を中心に全国から注文依頼がある。より美味しい状態で届けるため、冷凍をせず真空した生肉を届けるスタイルを貫く。宍粟市の2014年度の『ふるさと納税』の記念品として宍粟牛を提供して以来、宍粟市の名と共に注目を浴びる。また、鹿肉の食用化にも力を入れる。
―――「地域の為に」という気持ちを、とても強くもってらっしゃいますね。鹿肉の販売を始められたのも、行政からの相談がきっかけだとか?
鹿による農作物被害が深刻な状態なのはご存知でしょうか?鹿は病気にも強く、作物の新芽を好んで食べる為に、農家の方は相当な被害を受けています。もちろん、駆除作業も続けられていますが、それを越える繁殖力で増え続けています。これは宍粟市に限らず、全国的に大きな問題となっています。
経済産業省でもその問題に着手し始めたようで、各方面から鹿を食用として普及させるための協力を求められたんです。正直、簡単ではありませんが、地域のためになればと思い、鹿肉加工専用の施設を準備し、商品化を始めました。
―――鹿を食べるという感覚があまりないのですが、どんな肉なのですか?
以前、某大学の先生が、鹿肉の成分を調べて下さったのですが、とてもヘルシーな肉らしいです。脂肪が少ない上、消化のよいたんぱく質で、女性にとって嬉しい成分もある優秀な食材だそうです。
食材として優れていても、調理の仕方が分からないと家庭で食べてもらえませんよね?
大学の先生やカルチャースクールの先生が調理法を考えて下さっています。また、メンチカツやサラミソーセージなどの加工品も売り出しているので、まずは一度食べてみてほしいですね。
―――鹿肉のサラミソーセージをいただきましたが、美味しくて、鹿肉とお聞きしなくては分からなかったです。
食べた方は、「普通に美味しい」と言ってくださる方が多い。なので、まず口にしてもらう機会が必要だと思い、西播磨のあるイベントで、会場の入口にブースを設けてもらい、焼いた鹿肉を無償で提供したんです。すると、35Kgの鹿肉があっという間になくなるほど、たくさんの人が行列をなして食べてくれました。
これは、子どもの好奇心が原動力になったようです。
食べた子が「美味しい」と騒いでくれて、鹿肉に対して良くない先入観のあった大人も、それをきっかけに食べてみたら「美味しかった」という感想をもってくれたようです。それが、周りの人に伝わり、連鎖的に食べてもらえたようです。
―――昔食べたことがある方で、苦手意識をもっている方も少なくありませんね。
それはハンターさんから鹿肉をもらって、食べたことがある方ではないでしょうか?調べてみると、駆除目的で駆られた鹿は、食用肉ならあたりまえになされている血抜き処理などが全く行われていませんでした。だから、食べても美味しいはずがないんです。今、柴原製肉店に持ち込まれる鹿は、そういった処理方法のレクチャーを受けたハンターさんが獲ったものばかりなので、安心して食べていただけます。
―――鹿肉は今後どうなっていくと思いますか?
いつか学校給食で扱ってもらいたいですね。給食で鹿肉を食べることがあたりまえになった子供たちが大人になる頃には、牛・鶏・豚に続く第4の肉として、鹿肉が流通しているんではないでしょうか?
その効果として、農作物の被害も減少するでしょうし、駆除の対策費として使われていた公費も減少すると思います。さらに、食肉として流通した収益が、税収として行政に入っていくかもしれない。
そういうビジネスモデルを、どこよりも早く宍粟市で作りあげることが今の目標ですね。